03/05/01
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16 隔離」ではなく「共生」を
 
一層の工夫求める「緑の森」
ボッソウの子供たち
とにかく陽気なボッソウの子供たち。飾らない笑顔は私たちが忘れてしまったものを思い出させるようだ

森に入る前にビデオなどの装備を確認するガイド
森に入る前にビデオなどの装備を確認するガイド。チンパンジー保護の観点から現地ガイドの育成も課題だ

折りベッド
チンパンジーは枝を巧みに折りベッドをつくり寝る。こんなのんびりとした光景がいつまでも続くことを願ってやまない

歯磨き
毎朝きちんと歯を磨く。木の枝を使うのが彼らのスタイルだ

 
進歩する環境

 ボッソウ村の一角に、村人の手でチンパンジーが壁いっぱいに描かれた民家がある。

  27年前、杉山幸丸・元京大霊長類研究所長(67)は、ギニア全土の地図を作製中だった日本人測量チームの車を借りて来村した。この家に独りで住み、村人と「同じ釜の飯を食う」研究生活を始めた。借家人が変わった今も、村人たちは愛着を込めて「メゾン・ド・キュプリ(京大霊長研の家)」と呼ぶ。

 昼食のフランスパン1本と水を手に、熱帯雨林の里山を日暮れまでかけ巡る。私たちが体験した研究者の生活ぶりは、当時とそう変わらない。しか し、研究環境は一変した。94年、村外れに鉄筋コンクリート造り平屋建て350平方メートルの観察拠点が完成した。村の家々と比べると「壮麗」とも 言える建物は宿泊室や実験室を備え、「村で数台」の発電機もある。新発見や不測の事態は、衛星電話で即日、愛知県犬山市の研究所へ報告される。

 同大大学院生の大橋岳さん(27)と、21?30歳の5人の現地ガイドは、GPS(全地球測位システム)と無線機を装備してチンパンジーを追う。個々の移動経過を克明に調べるためだ。表情や動作はデジタルビデオに撮り、秒刻みで分析する。同大学院生の早川祥子さん(30)らは、毛や尿から 遺伝子を調べ、父子関係の解明に挑んでいる。

 群れ内外の交流や行動圏の調査は、「どういう対策が真の保護になるのか」を明らかにし、同時にヒトの祖先の生活を浮き彫りにする。杉山さんが4 0歳になって開拓した新境地は、今も研究の最前線だ。


地元の人材

 長い植民地支配と、独裁による混乱をくぐり抜けたギニア。満足な教育を受けてこなかった若いガイドたちは今、ラテン語の植物の学名を懸命に覚 え、チンパンジーの行動を必死に追う。寡黙だが「誇り」を感じさせる仕事ぶりだ。カイ(家)やヨ(ワイン)など、チンパンジーの名は、霊長研の命名法 に従いつつ、彼らが自分たちの民族の言葉で付けたものだ。

 一昨年、観察拠点の向かいに「ギニア国立ボッソウ環境研究所」が発足した。霊長類学や気候、社会学など5部門からなり、この村を拠点に、世界 自然遺産のニンバ山一帯を調査する。

 ここでは村人らを集め、環境教育のビデオ上映や英語指導も行う。地元大学生も研究のため滞在する。数少ない同国研究者の卵を育てる拠点とし ても期待されている。

 昨秋には初めて、首都コナクリで霊長類保全の国際会議が開かれた。背景には、豊かとは言えない財源をやりくりして臨むギニア政府の意欲、そし て、意欲を高めるきっかけを作った日本の研究者の存在がある。

 「保護の声を地元で育てなければ。それは利用させてもらう者の務め」。杉山さんはこの夏も村を訪れる。
◇  ◇
 この村にいつから、チンパンジーとヒトが住み始めたかは分からない。村の名は「アシの生えた場所。こんな土地は戦いに気を付けろ」という意味。 村の中心にある里山「バン」も、山に立てこもった村人が石を投げ落とし、ふもとの敵に当たる音から来た名という。

 今、この山には、19頭の「進化の隣人」が籠城(ろうじょう)を余儀なくされている。「保護」の名の下に彼らを隔離するのではなく、ヒトとチンパンジー が、豊かな自然を共に利用し合う存在になれるのか。緑の森は、両種族にふさわしい一層の「工夫」を求めつつ、なお深い懐を広げているように見 えた。

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おわり

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