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03/04/24
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![]() 木で作った玩具を人形のように抱いて遊ぶ女の子 ![]() 畑に向かう村人があいさつを交わす。指と指を絡ませ合うのが、この地方の独特の習慣だ ![]() 木の枝にぶら下がり、ワサワサと揺らしてみせる。若いチンパンジーは遊びが大好き |
あいさつは、よそ者と身内とを見分ける最初の符丁だ。チンパンジー観察に向かう早朝、畑仕事へ行くボッソウの村人と会う。「バーブー」と言われた ら「ンー、アイワ」と返す。少数民族マノンの「おはよう」。だが、覚えた通りに言うのは難しい。顔を見合わせたまま、「ンー」の前に数秒の間が要るの だ。せっかちな私はすぐに返事をしてしまい、いつも笑われた。 続いて握手。互いの指を人さし指と中指の2本で握り合い、離す時に相手の指でパチンと音を鳴らす。いい音が出ると、「できるな」とばかり、無表情だった相手がとたんに相好を崩す。村の子供たちは、できないながらも懸命に小さな指を絡ませてきて可愛い。両手を使わず、頭に荷物を乗せて歩 く習慣は、握手にはとても便利だ。 村では、私と平田記者の行く先々に子供が群がる。「マノン語を教えて」と声をかけたら、見る物すべての名前を片っ端から挙げ始めた。どの子も「教 えるって楽しい」と、笑顔の澄んだ目が語っている。私の復唱が正しければ「ンー」、発音が下手だと「ウララァ」と十数人が口をそろえて笑う。 チンパンジーも、声や身ぶりで微妙なコミュニケーションをしているらしい。連続的な「フー、ホー」という大声は、時に1キロ先まで響き、誰がどこで、どんな状況で「発言」したかが伝わる。発情中のメスは「アッ、アッ」というあいさつの声が短く、ほとんど声を出さないこともあるという。ヒト風に言えば 「おしとやか」か。「個々の音声や身ぶりがどんな意味をもつかを調べた詳細な研究はまだない」と西田利貞・京都大教授(62)。 ある日、若いオス「ヨロ」と大人メス「ニナ」が性交した。ヨロは低木の葉を揺らし、地面で足踏みしてニナの関心をひいた。他の地域では、オスが葉を口にくわえてちぎり、破く音を出したり、地面に枝を折り敷いてクッションを作り、そこに座って片足で足踏みするのが、チンパンジーの「求愛の合図」と いう。「獣のように」いきなり襲わず、相手をチラチラ見ながら合図を送る。 意思を通じ合う仕草は他にもたくさん見つかっている。ヒトと同じく、地域のメンバーが共有する「文化」なのだ。このように地域ごとに違う身ぶりをするのは、ヒトとチンパンジーだけの特徴だという。 カラカラカラ……と、自転車の車輪を転がして子供が走る。一昔前の日本と同じ情景だ。「父さんが作ってくれたんだ」と、男の子が私たちに木切れでできたミニカーを自慢する。人形を抱いて一人遊びする女の子もいた。直径約5センチの木の棒を20センチほどに切り、端に毛を植えた素朴な手作 りの「人形」に親心が見える。「遊びは、何かイメージを心のなかで操ることから始まる」。「人間は遊ぶ存在」という視点で文化史を描いた歴史家、ホイジンガの言葉が頭に浮かんだ。 レスリング、追いかけっこ、綱渡り……。遊び好きなチンパンジーの姿を見ていると、体を動かす喜びに加え、ヒトのような「イメージを操る心」を感じるから不思議だ。ある日の昼下がり、大人メス「ヨ」が枝に寝そべって、目の前に茂る葉を指先で軽く何度も弾いていた。私たちを穏やかに眺めるヨの顔が、葉の陰に隠れては出る。「イナイ、イナイ、バア」じゃないか。 京都大霊長類研究所の松沢哲郎教授(52)らのグループは、ボッソウでチンパンジーの「人形遊び」を発見した。若いメスが枯れ枝を抱いて運び、時折ペタペタと片手でたたいてあやしているようだったというから、村の人形遊びとそっくり。 別の若いメスは、死んだ小動物を拾い上げ、食べるどころか熱心に毛繕いをして、翌朝まで添い寝したという。「子を慈しむ気持ち」の発露なのか、このメスは初めての妊娠中だった。ヒトの親が子供に「飛行機」をするように、霊長研の「アイ」もあおむけに寝て、息子の「アユム」を両足で持ち上げて遊んでいた。 西田教授は一昨年、東アフリカでチンパンジーの遊びをまた一つ見つけた。両手を地面に付け、後ずさりしながら落ち葉を手で集めてガサガサと音を立てる。若いオスが弟を背中に乗せてこの遊びをし、続いて弟も、兄のまねを始めたという。児童文学家、坪田譲治の作品に出てきそうな「童心の世界」の1シーン。 「チンパンジーの思考回路はヒトに近い。遊びや身ぶりはたくさんあって、僕らが気付いていないだけかも」と西田教授。チンパンジーの寿命はヒトと ほぼ同じ。数十年に及ぶ長い観察を通して、初めて見えてくるものは多い。 |
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つづく
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