03/04/10
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13 学びたい「薬草」知識
 
「貧しい家庭での活用」思案
耳が一部欠けたチンパンジー
耳が一部欠けたチンパンジー。 けんかや病気で負うこうした怪我は野生の厳しさを想像させる

夕食を作るニョンコさん
夕食を作るニョンコさん(右端)。大きな鍋で米や芋をぐつぐつ炊く

コナクリの薬局で買えるマラリヤの薬
首都コナクリの薬局で買えるマラリアの薬。現地の人にとっては高価な物だ
 
夜間診療所

 「ガクはいるかい?」。電気のないボッソウ村の夜は暗い。暗闇の道を越えて夜ごと、村人たちが入れ代わり、村外れの研究施設へやって来る。お目当ては、施設に長期滞在する京都大大学院生の大橋岳さん(27)だ。

 心配そうな顔をした父親に連れられて来たのは、10歳ほどの女の子。ろうそくの薄明かりの中、首の皮膚が大きくただれて割れているのが見えた。皮膚病らしい。大橋さんが抗生物質の軟膏を塗ってやる。その間にも「家族が熱を出した」「歯が痛んで眠れない」などと間断なく村人が来る。まるで夜間診療所だ。

 「施設の常備薬では限界がある。視力は4.0と言われるほど良いのに、どういうわけか目薬を欲しがる人も多いんだ」と大橋さん。救急箱の中を探りながら、ため息を漏らす。「これじゃ研究を整理する時間もない......」

 首都コナクリはなぜか薬局が多い。フランスのテレビ局が特集したこともあるという。だが、薬はほとんどが外国製で高い。収入のわずかな村人には手が出ない。そもそも郡都ボッソウに薬屋はない。日本政府が村に診療所の建物を寄付したが、十分機能していない。資金の多くは、途上国にありがちな構造腐敗で、仲介する誰かの懐へ消えたようだ。かくして、村人は研究施設のわずかな常備薬に「救い」を求める。

抵抗力の差

 コレラ、マラリア、デング熱。エイズ、アフリカ睡眠病、エボラ出血熱......。死に至る危険の高い感染症の名がずらりと並ぶ。渡航前、ギニアの流行病リストを見て身震いした。義務づけられた黄熱病の予防接種は受けたが、あとはノーガードだ。

 なぜか私は人一倍蚊に刺されやすい。だから、滞在中はマラリアの恐怖にずっと悩まされ続けた。全身をボロ布に包まれ、震えが止まらないまま、運ばれてゆく病人を国内線の機内で見た。ああいう目に遭いたくない。蚊帳に小さな穴を発見し、眠れない夜もあった。

 平均寿命47歳、5人に1人は5歳未満で死ぬという国だ。身近に消毒薬さえない状況を考えれば、小さなきずでも破傷風の原因になる。1人のガイドが手を切って出血した時、村人たちは日本では想像できないほど動揺した。

 私や平田記者が疲れで寝込んだ時も、ガイドたちは深刻な表情で何度も見舞いに来てくれた。見ための頑健さとは裏腹に村人は病気がちだ。杉山幸丸・元京都大霊長類研究所長(67)は「栄養条件が抵抗力の差になっているのかも」とみる。

 村では伝統的に一夫多妻が認められ、8人の妻を持つ男もいる。研究者のために10年間、夕食を作ってきたニョンコさん(55)は、薪)を燃やした炎でシチューを煮る間、フランス近代史の本を読む知的な女性だ。ある時、松沢哲郎・霊長研教授(52)が一夫多妻の心境を尋ねると、こう答えた。「そりゃ、心穏やかじゃないわ。だけど、私が死んだら、だれが夫の面倒をみると言うの」。生を営むには仕事は山ほどある。そして、死はすぐ身近だ。

民間薬の姿

 ボッソウのチンパンジーたちも、けがや病気に囲まれて暮らしている。頭の上からくしゃみが聞こえる。メスの「ヨ」がいた。かぜらしく、見るからにだるそうだ。霊長研の後藤俊二獣医(52)によると、ヒトの感染症には、たいていチンパンジーもかかる。村に近い場所で暮らせば、それだけヒトからうつる可能性も高くなる。

 その息子「ヨロ」は、樹上で足をなめていた。「フォアフ」とけんかし、木から落ちてけがしたらしい。2児の母「ジレ」は右耳が欠けている。これも小競り合いの結果か。メスの「ニナ」は左手の指が何本か悪そうだ。イタチなど小動物を獲るための村人のワナにかかりかけたらしい。

 驚くべきことに、チンパンジーたちは「薬草」を使うという。マイケル・ハフマン霊長研助教授らの研究によると、病気のチンパンジーが普段は食べない植物の髄液を飲んだり、葉を丸飲みする行動が、他の地域で発見された。こうした植物は民間医療で虫下しや下痢止め、解熱剤、抗菌薬などに使われるものも多いという。

 ハフマン助教授は「民間薬は、近代化で急速に消えつつある。薬草の知識を霊長類に学び直し、途上国の貧しい家庭や畜産を助けられないか」と思案する。

 チンパンジーたちは、森を知り尽くし、活用している。それでも、大人オス「フォアフ」の体重は約43キロ。地表に埋めた体重計の上を通るよう、研究者が巧妙な作戦で得た数字だ。一方、病気やけがの心配もなく霊長研で暮らす「アイ」は60キロ超。その差から何が見えてくるだろう。
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つづく

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