03/04/03
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12 リーダーとは限らない
 
ボスの権勢もその場次第
統率者「フォアフ」が姿を現した
ボッソウのチンパンジーの統率者「フォアフ」が姿を現した

茂みで一休み フォアフを追いかける観察者。フォアフが木の上で休んでいる間に茂みで一休み

集団で下校する村の子供
集団で下校する村の子供。コミュニケーションを持つ生活はヒトもチンパンジーも共通だ
 
ドタバタ追跡

高さ約20メートルのカポックの大木に、10頭以上のチンパンジーが「鈴なり」になっていた。みんなで花を食べているという。隣の木にも数頭いるようだ。いったい何事だ? ガイドが順々に名前を言うが、とても識別できない。中に肩の肉付きのいいのが1頭いる。あれがボッソウ19頭の“ボス”フォアフ。そうか、彼が戻ってきたのだ。

約10分後、フォアフが激しいスピードで木を下りると、他のチンパンジーも「我先に」とばかりに太さ20〜30センチの幹を抱えて下り始めた。速さが違うので、下のチンパンジーの頭を上から尻で押したり、追い抜こうとして、あちこちで小ぜり合いになる。木が左右にたわむ。まるで、バラの茎にたかるアブラムシのような光景だ。

ぬかるんだ急斜面を走り去るフォアフを、十数頭のチンパンジーと、私たち7人が追う。「カメラを向けるな」。ガイドの1人が叫ぶ。大人のオスは、銃のように見えるカメラに敏感なのだ。長く観察を続ける京都大大学院生の大橋岳さん(27)は、チンパンジー並みの速さでイバラをすり抜けて行く。約15分のドタバタ追跡劇。チンパンジーたちは木々の向こうに消え、汗みどろの私たちは静まり返える森に取り残された。

政治的な世界

フォアフは96年ごろ、「アルファオス(一番強いオス)」の地位に就いた。父と推定される「テュア」と交代したという。なぜ分かるのか。残念ながら、2人の間に何が起きたかは確認されていない。ある日、テュアがフォアフに出会うとあいさつをした。「それで初めて、関係の逆転を知った」と京都大霊長類研究所の松沢哲郎教授(52)。「アッ、アッ」と低く鳴きながら頭を下げ、腰をかがめて相手へ近づく。これならヒトの私にも「恭順の意」が伝わる。

東アフリカ・タンザニアでチンパンジーを観察するジェーン・グドール博士は面白い報告をしている。いつもいじめられていたオス「マイク」がある時、大きな空き缶を引きずって狂ったように走り始めた。周りのオスはその音に恐れ、劣位の姿勢でマイクの足に口づけしたり、毛繕いを始めた。マイクは缶を多数確保し、缶を投げつけることさえ覚えて、地位を確実にした......。

オランダ・アーネム動物園のチンパンジーを観察したフランス・ドゥ・バール博士は、2頭のオスが連合し、首位オスを追い落とした例を述べている。かなり政治的だ。いずれの「交代劇」も、流血の戦いはなし。攻撃ではなく「攻撃の姿勢」で決着がついたという。

フォアフも、そうやって父親に「勝った」のだろうか。チンパンジーは乱婚なので、父子の間柄は本人には分からない。少し非情な気もする。

そつないメス

チンパンジーのオスは序列社会と言われる。中でもアルファオスは、仲間から格別の敬意を受ける。枝を揺すり、石を投げ、威張り散らす。他のオスが交尾しないよう、メスを独り占めしようとする。一方で、下位のオスが「お追従」よろしく毛繕いをしてくると、ちゃんとお返しの毛繕いをし、「昔の敵は今の友」とでもいうように、ライバルと仲良く抱き合ったりもするそうだ。

しかし、統率や調停、防衛などのリーダー役に決まっているわけでもないらしい。「群れの半数は、群れの外にいるオスの子供だった」という他の地域での研究もある。威張ってメスを独占しているようで、実際は自分の子をより多く残す保証もないようだ。

メスの方が案外、そつなく行動しているのかもしれない。けんかの仲裁にはむしろ、ボッソウの「カイ」のような年配のメスの役割が大きいという。手や唇などで「ふれ合う」ことで、深刻な対立さえ和らげるのだ。

アグレッシブに動き回るフォアフに、みんながいつもついて行くわけでもない。ボッソウは大人オスが少ないので分かりにくいが、それにしても“ボス”の利益とは何なのだろう。それは、“ボス”の個性やメンバーの力関係次第なのかもしれないし、「権勢を張る」とは案外こんなことなのかもしれない。ヒトの場合はどうだろう。ともあれ、チンパンジーのオスたちはもっぱら順位争いと交尾に励み、メスより短命だ。

若いオス「ヨロ」はある日、私たちが近づくと「ウー、ホー」と連続的な大声を上げ、木の幹をドラムのように激しくたたいて威嚇した。自分の体があのようにたたかれたらたまらない。彼らは、太さ5センチ以上ある生木をわけなく折る腕力があるのだから。

ヨロの仕草は、霊長研に住むチンパンジーのリーダー、アキラがよくやるよそ者への威嚇にそっくりだった。いつも母親の「ヨ」に付き添われ、何だか頼りなさそうだったヨロが見せた大人っぽい行動。帰国後、ヨロはテュアと順位を変え、2位を固めつつあると聞いた。やがて、フォアフとの「対決の日」も来るのだろう。
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つづく

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