03/03/27
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11 不可解な「きずな」
 
民族・国家に至るルーツが......
仲間から離れて大木の枝でゆったりと休むチンパンジー
孤独を好むのだろうか。仲間から離れて大木の枝でゆったりと休むチンパンジーも

雨にぬれながら観察を続ける大橋さん
雨にぬれながら観察を続ける大橋さん。フィールドワークには強じんな体力が求められる

「ボス」の存在が森の雰囲気を一変させる
「ボス」の存在が森の雰囲気を一変させる
 
恋の逃避行

ボッソウ村から約4キロ離れたニンバ山原生林にやって来た3頭のチンパンジーは、発見した村のガイドにはおなじみの顔だった。オスの「テュア」、メスの「ファナ」は、この村でチンパンジーの観察が始まった76年に既に大人だった古株。ファナの方はそろそろ乳離れする5歳の娘「ファンレ」を連れてはいたが、熟年に差しかかった2頭の「デート旅行」中だったわけだ。

発情中のメスを連れてオスが遠出する行動は、チンパンジー社会にはよくあるという。ちょっとアバンチュールな香り漂う「恋の逃避行」。手を取り合ってサバンナを越え......とまでは言いきれないが、危険の多い人道を横切って遠出するのをためらうメスに、尻をたたいて渡らせたボッソウのオスもいたそうだから、この場合、強引だが「ついて来てほしい」のだろう。

オスは独りで、あるいは他のオスと一緒でも遠出するという。森に食べ物が少ない時期、少し離れた森や畑に「出稼ぎ」に行くのだ。もちろん、それだけ危険は多い。アフリカの他の地域では、オスの方が肉食が多いというが、これも危険と裏腹の「報酬」に賭ける行動だろう。遠出に同行したメスには、力の強いオスに守られて「分け前」にあずかる特典もある。

76年以後、研究者が観察し、名前をつけたボッソウのチンパンジー54頭のうち、若者を中心に32頭は姿を消したままだという。京都大霊長類研究所の松沢哲郎教授(52)は「彼らも今後、同様にニンバ山で見つかるかもしれない」と期待する。密猟のはびこる世界遺産の森で、無事に生き延びていたらの話だが。

群れの不思議

昼下がり、チンパンジーの母子3組が1本の高い木に集まっていた。適度な間隔を置いて、母親が子供たちを、手近な枝の上で遊ばせている。「女のおしゃべり」こそないが、寄り添うような光景に心和む。

乳児を抱えて遠出すればリスクが大きい。森はそんな危険を冒さずに済むほど豊かだ。メスの方が果物や木の葉を好むというのも、分かる気がする。 グレープフルーツの実を勧めても、「血が薄くなる」と言って食べなかった村の若い男たちをふと思い出した。ヒトの嗜好(しこう)のルーツに、しばし思いをめぐらせた。

メスたちは、しばらくすると別れていった。群れの数十頭が基本的に一緒に行動するニホンザルと比べ、これが何とも不思議だった。たとえ森で出会っても、あいさつもそこそこにすぐ別れる姿も見たし、ずっと単独で移動するものもいた。チンパンジーにとって「群れ」のきずなとはなんだろう。

チンパンジーの群れがある日、二つに分かれ、一方が他方を「皆殺し」するという残酷な出来事が東アフリカであったという。自分たちの仲間を殺す、いわゆる「同種殺し」。「ヒトほど、同種殺しをする生き物はいない」と言われるが、一見平和に暮らすチンパンジーたちも、同じ残忍さを秘めていたのだ。だとしたら、チンパンジーの群れの「きずな」は、民族や国家に至る遠いルーツかもしれない。群れがなぜ分裂したのか、研究が続いている。

ボスは偉大か

「もう2週間近く、姿を見ていないんです」。すっかり日の落ちたある日の午後7時過ぎ。村でチンパンジー観察を続ける同大大学院生の大橋岳さん(26)が、疲れ切った顔で研究施設に帰ってきた。夕方の雨で全身ずぶぬれのままだ。

大橋さんは連日、「フォアフ」という22歳のオスを追っていた。ファナの生んだ子で、父はテュアと推定されるから、昔の「デート旅行」のたまものかもしれない。今やボッソウ19頭の「ボス」だ。「ボス」という言葉の先入観を避けて、研究者は「アルファオス(一番強いオス)」と呼んでいるが、「群れの中心」であるはずのこのオス自身が「群れ」を離れ、遠出しているのだ。ここに、大橋さんが関心を寄せる理由がある。

ろうそくの明かりで夕食を取りながら、大橋さんの話を聞いた。フォアフは、数キロ離れたマニオクというイモの畑などを荒らしに行っているらしい。痕跡を頼りに1日30キロ以上、道なき森の中を追いかけるが、「疾走する大人オスの速さは、ヒトには歯が立たない」。研究者も大変なものだ。

「ボス」とは何者なのか。その嵐のような「すごさ」は後日、彼が目の前に現れた時に、思い知った。
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つづく

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