03/03/13
目次へ戻る
10 命つなぐ緑の回廊
 
未来を描き、植樹に期待
広大なサバンナ
ニンバ山系(後方の山)まで約4キロ続く広大なサバンナ。将来の植林のためアシを刈りとった

緑の回廊を歩いた
緑の回廊を歩いた。葉を大きくしげらせた木には小さな実がついていた

開墾者が伐採を試みた木が倒れていた
直射日光を遮り苗を育てる。これらがやがて豊かな森を形成する

開墾者が伐採を試みた木が倒れていた
 
焼き畑の罪

豊かな森に慣れた目には、命を脅かす恐ろしい土地に見えた。

ボッソウ村から車で2、3分。風景はサバンナ(草原)に変わった。わずかに低木が点在するほかは高さ2メートルを超すアシが一面に茂るだけ。冬というのに太陽は真上から照りつける。遮るものはない。「手元の気温計は」と見ると39度。暑さで気が遠くなる。ガイドのフェリックス君(23)は表情を変えずに「平気さ」と言うが、これは泣きごとを言わないアフリカの男の公式コメント。めったに見ない汗が、首筋に吹き出している。

アシの切れ目に時折、野生のヤギが跳ねる。危険な動物が身を潜めていても、この草丈では分からない。「サバンナ」といえば、野生動物のくつろぐ楽園を思い描いていたのに。

実は、サバンナはこの土地本来の姿ではない。ギニア独立4年前の1954年、ボッソウが属す州を踏査した旧ソ連の植物学者バラーノフが既に報告している。「ここには、森が茂るに十分な雨がある。サバンナは、乾燥した暑い気候でできたのではない。農作物を作る土地を探して森を切り、滅ぼした幾世紀にもわたる人間活動の産物だ」と。

チンパンジー19頭が暮らすバンの森は、今や大海原に浮かぶ孤島のように、サバンナに取り囲まれていた。「近年の難民流入で、焼き畑が拡大した影響が大きい。ボッソウのチンパンジーは、このままでは絶滅してしまう」。村で観察を続けてきた京都大霊長類研究所の松沢哲郎教授(52)は危機感を抱いた。

苗木よ育て

サバンナの一角が整然と切り開かれ、赤土の道に沿って、さまざまな区画が数百メートル続いている。

ある区画は、アシを焼いた後に幾種類もの苗木が等間隔に植えられている。暑さに弱い樹木の苗を育てるため、早く成長する別のアシの苗を交互に植え、草陰を作っているのだ。別の区画は、刈り取ったアシで地表が覆われ、下から苗木が顔をのぞかせている。イモの一種のマニオクが茂る区画では、マニオクの高い草丈の陰で苗木が育っている。「緑の回廊」の建設現場だった。

松沢教授らは99年、現地のギニア国立ボッソウ環境研究所と共同で植樹プロジェクトを始めた。長さ4キロ、幅300メートルの植樹帯を作り、国境に横たわるニンバ山の原生林とバンの森をつなぐのだという。

「ニンバ山には100頭以上のチンパンジーがいる。双方のチンパンジーが回廊で自由に行き来すれば、絶滅は防げる」と松沢教授。その労力と暑さを思うとため息が出そうだが、村人たちはこのアイデアに前向きだ。区画ごとに違う植樹法は、村人たちの自発的な実験。苗木にする種をチンパンジーのフンから取るなどの工夫も重ねていた。立ち枯れも多いが、最初の苗の一部は既に身の丈を越えていた。

計画は単にチンパンジーを救うだけでなく、畑荒らしに悩む村人とチンパンジーの緊張関係を解く「実験」でもある。回廊づくりに並行して、焼き畑より環境負荷の低い水田開発も始まることになった。約80ヘクタールの水田と、両国政府が支援する回廊づくりの現金収入で村人が潤えば、チンパンジーに寛容な伝統は守られる。そうして共生が実現すれば、「チンパンジーを守る村」として、世界を相手に観光誘致も可能だ――。ガイドのグアノ元村長(60)は、村民の集う宴席で熱く語った。

富生む森に

ニンバ山の原生林にも焼き畑の火の手は迫っている。ユネスコは92年にこの地を「危機にひんした世界遺産」に指定した。こうした開発で、アフリカ各地の霊長類が絶滅の淵(ふち)にある。野生チンパンジー観察の第一人者である英国人女性研究者、ジェーン・グドール博士が40年以上観察を続ける東アフリカ・タンザニアのゴンベ国立公園(52平方キロ)でも、周囲の開発で園内の森が「陸の孤島同然」という。

「規制して森を守るのは限界がある、それなら富を生み出す森を作り出そう」。ボッソウ村の試みには、そんなユニークさとともに連綿と続く「時の流れ」を感じる。アフリカで誕生したヒトは、豊かな森の生活を捨て、サバンナへ進出した。その延長に、極地から砂漠まであらゆる土地に住み着いた現代人がいる。今、ヒトははるかな故郷の森と、そこに住む「進化の隣人」を守ろうとしている......。

今年1月、ボッソウの3頭のチンパンジーが、ニンバ山のふもとでガイドに発見された。建設中の回廊を通ったのだろうか。「彼らにとって植樹が役立つという確実な手応えを感じた」。松沢教授は声を弾ませた。
■■■■■もどる
つづく

トップへ戻る