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03/02/27
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![]() 村の祭り。打楽器の畳み掛けるリズムが村民を覚せいへと誘う ![]() チンパンジーがすむ森に太陽が沈む。闇が村を支配する ![]() 民家の裏庭。家の主たちが見守る中、ヨロがパパイアを採った |
驚くべき光景だった。いや、居合わせた村人たちは平然としている。驚いているのは、私と平田記者だけだ。 チンパンジーがバン山を駆け下り、研究施設のあるボッソウの村外れに向かっている。そう聞いた私たちは現場に急いだ。「ヨロ」というオスが、山すその民家の庭へ侵入し、畑のパパイアを盗んでいるところだった。 周囲を警戒しつつ、パパイアにかぶりつくヨロ。しかし、家の男たちは追い払うでもなく、作業の手を休めて無言で見守っている。子供たちも「キエ(現地語でチンパンジー)だ、キエだ」と小声を交わすだけ。番犬のほえる声がやんだのは、誰かが止めたのだろう。ヨロは、家の軒先寸前まで近づき、高さ3メートルほどの木に登ってもう一つ採った。 これがアフリカの他の地域なら、銃の一発でしとめられ、「森の珍味(ブッシュ・ミート)」として売られるところだ。「猿害」に苦しむ日本の山村でも、作物を荒らす野獣を黙って見過ごしはしない。 ボッソウの村人は、なぜチンパンジーを保護しているのだろう。ある夜、ガイドでもある村の長老たちに尋ねた。 「いや。私の父が小さいころは村でもチンパンジーを殺していたのだ」とグアノさん(60)は語り始めた。フランスの支配下で、当時の郡長が禁令を出したのだという。 当時の状況をティノさん(60)は、こう説明する。「フランス人による労働強制は日常だった。彼らは我々に対して非常に厳しく、禁令の違反者は首を切られた」。ティノさんは手を首に当てて見せた。ろうそくの火に照らされる長老たちの漆黒の顔。表情が読み取れない。 村の歴史を調べる山越言・京都大助手(33)によると、近くのニンバ山原生林が自然保護区となったのは、植民地時代の1944年。しかし、ボッソウは42年、既に「チンパンジーを守る村」との報告があるという。禁令の記録は見つかっていないが、既に当時、ボッソウは周辺の村々と異なる保護の姿勢を持っていたことは確かだ。 それを問うと、2人は違う話を始めた。「我々はチンパンジーの生まれ変わりなんだ」「今でも、村人は森へ入るとチンパンジーに変身すると言われている」。通訳に入った地元の英語教師は「アフリカっぽいお話さ」と軽く受け流す。 後日、村人たちに詳しく聞くと、村人は家ごとに、カタツムリやイヌ、ヘビなど「食べてはいけないもの」がある。その家族にとって特別な存在(トーテム)なのだという。最初にこの村をつくった家族は、チンパンジーがトーテムだった。それで、後から来た新住民も、開村者一族に配慮して守るようになったという。 隣国コートジボワールの研究者の調査では、こんな話もあるという。昔、この村あたりで勇士がだまし討ちに遭って死んだ。その無念の魂が、チンパンジ ーに身をやつして現れる......。 保護の理由は、当初と食い違っている。こちらは戸惑うが、彼らもごまかしているのではないらしい。現実とは、次元の違う数多くのストーリーが織りなす複合物なのだ。 「こうした変身譚(たん)は、アフリカではもっと奥が深いんです」と山越さんはさらに語る。西アフリカ一帯には、動物の名を冠した「秘密結社」という組織があり、その動物たちが持つ、人間を超えた力を得る呪術(じゅじゅつ)的な信仰を共有しているという。その実態は土地の人以外には知られず、行政組織という「昼の世界」とは違う姿で、人の行動を支配している――。 ギニアでは、独立後の社会主義独裁政権が呪術を禁止した。だが、祖先から子孫に受け継がれてきた信仰は簡単には消えない。「他の村では、チンパンジーは蛇蝎(だかつ)同然に嫌われる。ヒトに危害を加える点では、ヘビと同じで、人間を超えた力を持つと信じられている。畏怖(いふ)の対象です」と山越さん。「サル知恵」をからかわれるニホンザルのような親しみはないようだ。 特に、チンパンジーは予知能力があり、異常を伝える特殊な存在とされる。ギニア国立ボッソウ環境研究所のディアキテ所長(44)は「チンパンジーが家の裏庭で奇妙に鳴いたり、木の葉を揺らして騒いだら、その家の病人が死ぬなど悪いことが起こる、という話もある」と説明する。その奇妙だという鳴き声は、チンパンジーの普通のコミュニケーションとは違う。山越助手は「ある種の警戒音だが我々研究者にも説明のつかない声」と言う。 チンパンジーに抱く村人の恐れは、チンパンジーの住む森自体への恐れでもある。人間界(畑)と自然界(森)を分け隔てなく渡り歩く、ヒトに似た不気味な知性の存在。自然は、チンパンジーは、単なる「守るべきもの」ではない――。だが、こんなストーリーには納まらない、新たな動きの進行に後日、私たちは直面することになる。 深夜、暗い森の奥から、チンパンジーの鳴き交わす声が響いてきた。 |
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つづく
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