03/02/20
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道具を「利き手」で
 
母から学ぶ栄養摂取の知恵
木の実をほおばる「ヨ」
木の実をほおばる「ヨ」。チンパンジーにも利き手があることが最近の研究でわかった

村でアブラヤシの実をつく親子
村でアブラヤシの実をつく親子。リズミカルな動きはチンパンジーの「きねつき」にそっくりだ

太い葉を抜いてきねのように使う「カイ」
アブラヤシの木の上で太い葉を抜いてきねのように使う「カイ」
 
きねつき

ガスッ、ガスッ。アブラヤシの木の上から、等間隔で音がする。幹の先端で、「フォタユ」という若いメスが2本足で立ち上がり、引っこ抜いたヤシの葉を両手に持って、上下に激しく動かしていた。葉の柄は直径5センチ。幹を突くたび、鈍い音が響き、そばで遊ぶ1歳の息子「フォーカイエ」の尻の毛が揺れる。白い毛は幼い「守られるべき存在」の証し。

村人たちがアブラヤシの実から油を取るきねつきの作業にそっくりだ。ボッソウで初めて見るチンパンジーの行動。だが、ヤシの木は先端に葉が茂っており、フォタユの姿は観察しにくい。「写しにくいな」。望遠カメラをほぼ垂直に構えたまま、平田記者がぼやく。

何度か同じ動きを繰り返すと、フォタユは葉の柄を左手に持ち、右手を下の方に伸ばして何かを食べた。つき崩して柔らかくした髄を食べるのだという。 柄は、まさにきねの役割。そう、チンパンジーは道具が使えるのだ。

京都大を中心とする研究者たちは、こうしたチンパンジーが道具を使う事実を次々に発見してきた。葉を取った細い枝をアリの巣穴に突っ込み、食いついたアリを食べる「アリ釣り」、葉を折りたたんで、木のうろにたまった水に浸して飲む「葉のスポンジ」、アブラヤシなどの固い実を石の台に置き、別の石でたたき割って中の核を食べる「ナッツ割り」など。アフリカ各地で見つかった彼らの道具は30種類以上とされる。

中でも、ボッソウでは多彩な道具が見つかり、「村に近いせいか」とも言われる。村の生活は、バン山の樹上から一望できる。木の上でくつろぐチンパンジーたちが、ヒトの働く姿を見て自然に習い覚えたとしたら......。

山すその田んぼの脇に、直径2メートルほどの池があった。ガイドのグアノさん(60)は「ここではチンパンジーが、枝を持って水藻をすくって食べるんだ」 と言った。別の時には「今、ナッツを割る音が聞こえるぞ」とも教えてくれたが、森は下草が多く、残念ながら目撃できなかった。長い間、道具使用の実態 が謎だったのも、このためらしい。

自分の石

バン山の頂上は下草が刈られ、広場になっていた。京都大霊長類研究所の松沢哲郎教授(52)が、効率良く道具使用を観察するために工夫した「野外実験室」だ。道具になりそうな石などを置き、離れた所から観察する。実験で明らかになったことは、チンパンジーにも「利き手」があることだった。

ナッツを割る時、フォタユはたいてい石を右手に持つ。兄の「フォアフ」もそう。彼らの母「ファナ」は、以前は左手だったが、最近は右手。石を持つのが右手なら、割った実をつまむのは左手の指先。どちらを「利き手」と見るかは難しいが、こうした癖も「個性」なのだろう。脳の左右差との関連を調べる研究者もいる。

松沢教授によると、それぞれ、いつも使う「好みの石」があり、毛繕いしてやると見せかけて、別のチンパンジーの手から「自分の石」をだまし取ったり、使い終わるまで待つことも。ナッツのある別の場所まで、わざわざ石を持って行くことさえあるという。

松沢教授は、ボッソウにはない実を「野外実験室」に置いたところ、大人メス「ヨ」だけが割って食べた。この結果、ヨはよそから「嫁に来た」ことが分かった。道具や食の文化は、女が伝えるらしい。そして子供たちは、母親の仕草を見よう見まねで学び取る。「母親は黙って見守るだけ。チンパンジーに教育ママはいない」と松沢教授。こうなると「ヒトの働く姿を見て習い覚えた」というのも、まんざら絵空事ではなさそうだ。

宮崎県幸島のニホンザルがイモを洗って食べる習慣も、1頭の行動が広まったもの。その時、大人オスだけは、メスや子供に広がったユニークな習慣に目もくれず、行動を習得することがなかったというから、身につまされる話だ。チンパンジーやサルに何も学ばなければ、ヒトもまた「大人オス並み」なのだから。

少ない肉食

それにしても、豊かな森にはすぐ食べられる果物や葉があふれているはずなのに、なぜ道具を使うのか。山越言・京都大助手(33)によると、果物の減る6月、きねつきやナッツ割りなどの道具使用時間は、年平均の3倍近くに増えるという。

道具は、短時間に大量の栄養を穫得し、食料の少ない時期を乗り切る優れた技術なのだった。この技術を手にしたボッソウのチンパンジーは、他の地域より出産間隔が短く、小さな森により多数で住むことを可能にした。ボッソウで肉食が少ないのも、このためかもしれない。

もう一つ、ボッソウのチンパンジーには「地の利」がある。人里に近く、畑を荒らしやすいことだ。
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つづく

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