03/02/06
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大木の上「安全な公園」
 
あらゆるものをのみ込む森
スルブロなどの大木が残る森
スルブロなどの大木が残る森。豊かな緑がしゃく熱の太陽から地表を守る

森で拾ったまきを運ぶ
森で拾ったまきを運ぶ。村人の生活に森は欠かせない

おびただしい数のアリ
川のような流れを形成して歩くおびただしい数のアリ

ところどころにあるアリ塚
ところどころにあるアリ塚。わずか1週間で人の背丈程の高さになる
 
地上40メートル

現地語で「スルブロ」と呼ぶイチジク科の大木が、地上40メートルほどの上空で柔らかく明るい色の葉を広げている。幹の周囲は16メートルを超え、根はロケットの尾翼のように四方に広がっている。バン山の中腹。鬱蒼(うっそう)とした熱帯雨林は、スルブロの周囲だけポッカリと開けている。チンパンジーが集まってきた。

まずは、1歳の息子を連れた若い母フォタユが木の上に登場。「ウー、ホー」と森に響く呼び声を放って20分、南の方から2児を連れた母ジレがツタを伝って登ってきた。別の方角からヨ、ヨロ母子も来て、先客と「オッ、オッ」とあいさつを交わす。おや、1歳の娘を連れた若い母ブアブアまで現れた。生後1カ月の息子ジマトを、手の届く枝の上で遊ばせるジレ。木の上はまるで、母と子の安全な公園のようだ。

ガイドの機転で、長さ40センチ以上ある「サー」というクズウコン科の厚い葉を湿った地面に敷き、座って待ち構えていた。その20分後、目前に現れたチンパンジーの社交場。じっくり観察ができる。今朝は、我々の作戦勝ちだ。

隣のアカテツ科の大木には、チンパンジーが寝るために作る巣(ネスト)がたくさんあった。山の南東斜面で、朝から日当たりが良いせいらしい。研究者は、スルブロの幹に約11メートルのはしごを掛け、巣を観察するビデオを置いた。試しに登ってみたら、高さとあふれる緑で目がくらくらし、足が震えた。 進化の道筋に横たわる、チンパンジーとヒトの距離を感じた。

伐採、畑に

「これを見てください」。帰国後、松沢哲郎教授(52)にバン山の古い写真を手渡された。オランダ・アムステルダム大のコルトラント博士が67年と86年の2度撮影したものだ。67年にふもと近くまであった森は、86年には中腹以下が「おかっぱ」状に伐採され、畑に変わっていた。ふもとに広がる焼き畑が、チンパンジーを山の頂上へと追い込んでいた。村人の多くは、チンパンジーを保護すべきだと考えていたが、どの程度の森があれば十分かという知識はなかった。

松沢教授が初めてボッソウ村を訪れたのは86年。焼き畑など開墾によってバン山周辺の丘の環境破壊はもっと深刻で、稜線だけに木が細い列として残るだけだった。「おかっぱどころか“モヒカン刈り”で驚いた」と松沢教授は言う。

スルブロのようなチンパンジーの安らげる巨木は、バン山の中でさえそう多くないのだ。霊長研スタッフやギニア政府、村のガイドらは、畑を放棄するよう村人たちを説得したため、現在は少しずつ自然が回復した「二次林」が増えている。チンパンジーを追う私たちが、保護森林の真ん中で見たバナナやココア、コーヒーの畑は、最近放棄されたものらしく、一部はまだ収穫が続いていた。

では、チンパンジーに必要な森の広さはどの程度なのだろう。松沢教授は「アフリカの他の地域の研究によると、1〜2頭で1平方キロ」と言う。ボッソウはしかし、バン山を中心に約6平方キロに19頭もいる。チンパンジーの数は25年前から、変化していない。この森はどうやって彼らを養ってきたのだろうか。

赤いアリ

スルブロの根元に、日本製の温度計があった。1日の最低気温18度、最高28度。湿度98%。蒸し暑さは、少し空気が動けばしのげる。これが、村の広場や草原(サバンナ)では時に35度を超え、息を吸うだけで疲れた。「地球温暖化」を食い止める「森の力」を肌身で感じた。

私たちが歩いたバン山の森は、沢筋を中心として昼でも薄暗い。フクロウをはじめ数種類の鳥や虫の声が響くほかは、静まり返っていた。東アフリカのような、チンパンジーを襲うライオンなどの巨大獣はこの森にはいない。

杉山幸丸・元京都大霊長類研究所長(67)らの調査では、森の草木は実に664種類にも及ぶという。スルブロのような高木、それにからみ付いて茂るツル草から森の下生えまで、渾然(こんぜん)一体としている。

年間降雨量は、3〜10月の雨期を中心に2000ミリ以上。バナナの皮などの食べカスは、庭先にでも投げておけば、家畜のニワトリが食べ、虫がたかり、腐敗して1週間ほどで姿を消す。

背の高さほどのアリ塚が、わずか1週間でこつ然と出現する。ある時、森の中を歩いていて転んだ。腐食した葉が積もった地面にズボリとはまり込んだ途端、体中に激痛が走った。体長2センチもある赤いアリたちは、一瞬で私を餌食にしたのだ。

森はヒトやチンパンジーだけでなく、すべての生き物にとって快適な環境だ。あらゆるものをのみ込んで、森の「豊かな自然」は成り立っていた。
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つづく

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