03/01/30
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村人の生活支える
 
コーヒー収穫や木の葉採り
コーヒー畑の中を畑仕事を終えた女性たちが家へ急ぐ
コーヒー畑の中を畑仕事を終えた女性たちが家へ急ぐ

ベテランのグアノさん
無線で他のガイドと連絡をとるベテランのグアノさん

チンパンジーのフン
チンパンジーのフン。内容物からいろいろなことがわかる

パマ(左)とその子供のペレイ(右) 大木の枝でゆっくりと休むパマ(左)とその子供のペレイ(右)
 
ガイド

ボッソウのガイドたちは恐ろしく目がいい。高さ20〜30メートルの樹上にいるチンパンジーを観察するため、私は野鳥観察用の双眼鏡をのぞき込む。「あれは寝ているの?」と聞けば、裸眼のガイドたちは「寝てはいない。休んでいるだけさ」と答える。

悔しいが、ガイドより先に私がチンパンジーを見つけるなんて無理のようだ。「どうやってチンパンジーの居場所を知るのか?」。そう訪ねると、ボッソウ村の元村長で76年以来のベテランガイド、グアノさん(60)は道すがら、土の上に落ちたフンや足跡、葉の上に水滴になって残っている尿などを次々と指し示した。

グアノさんは何気なく、道端の草むらから折れた1本の草を拾って言った。「チンパンジーが折ったものだ。これでどの方角へ行ったかが分かる」。フンの色も手掛かりだ。時間経過とともに変色するため、どれぐらい前に、その地点を通ったかが分かるという。そう言われても分からない。目を凝らしているつもりだったが、彼らからみれば、私は寝ながら歩いているようなものだ。

種は丸飲み

「自然を学ぶには」と、フンを小枝の先で突き崩してみた。直径約3.5センチの黄緑色のぼたもち状。ほとんど繊維質で、大小さまざまの種が数多く入り交じっている。ヒトのものとは随分違う感じだ。

学ぶことにかけては、研究者たちは徹底している。京都大霊長類研究所スタッフの竹元博幸さん(37)はボッソウで2年間かけて約400個のフンを集め、分析した。その結果、長さ2ミリから4センチまで61種類もの種がフンの中から見つかった。一つのフンに入っている種は平均4.8種類。アフリカの他地域のチンパンジーより種類が豊富なのだそうだ。「ボッソウのチンパンジーが、森の豊かさをとことんまで利用しているという証明」と竹元さん。

種はほとんどが丸飲み。長さ4センチのアブラヤシの種さえ丸飲みとはすごい食べっぷりだ。この種がフンから発芽して、草木に育っていく。野生のチンパンジーは、森を育てていく重要な役割を果たしているのだ。

1日の観察を終え、村にたどり着くころ、グアノさんがさまざまな木の葉や実を入れたビニール袋を持っていることに気付いた。葉は天日に干してシチューの具にしたり、薬草に使うらしい。一緒にチンパンジーを追跡していたはずなのに、いつの間にか“収穫”もしていた。「どこで採ったの?」の質問には答えず、グアノさんは得意そうな顔を残して家路に就いた。ボッソウの森は、チンパンジーの楽園であると同時に、村人の生活を支える里山でもあったのだ。

樹上注意

樹上のチンパンジーを下から見上げるのには、ちょっとした危険が伴う。

いろいろなものが降ってくるのだ。 果実のおいしくない皮の部分は、歯で巧みにむいて落とす。片手で実を持ち、もう一方の手の指先で種を上手にほじり出す。熟していない実は見た目で分かるのか、それも下に捨てる。所かまわずフンもする。尿は時に日光を受けて、虹色のシャワーのように輝く。慣れない私たちは落下物を避けるため右往左往するが、ベテランガイドは被害の及ばない位置を見定め、ちゃんとそこにいる。

9歳のオス「ポニ」は、ひょうきんな仕草で見飽きない。枝の上で大またを広げて座り、ポカンと口を開けていたりする。よく見ると、舌を口の中で踊らせている。何を考えているんだか。地元ガイドたちは「口が壊れている」と言って笑う。

遊び好きでよく笑う。笑い過ぎのせいか、よくしゃっくりもしている。「森を育てている」などという大それたことをしているようには見えない。

近くではポニの母「パマ」が、4歳になる下の息子「ペレイ」の背をそっと毛繕いしていた。ペレイはうつ伏せのまま枝にあごを乗せ、必死に眠気と戦っているようだ。

その木の下では、村の女性とその子らしい少女が、鼻歌を歌いながら低木のコーヒー豆を収穫している。女性は、弓なりにたわんだコーヒーの細い木をすいすい登っていく。

コーヒーの白い花は、枝に積もる雪のようだ。静かで平和な午後。ヒトとチンパンジーの母子が、まどろみの中で重なる。でも、ちょっと待ってくれ。なんだってこんな保護森林の真ん中に、コーヒー畑があるんだ?
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つづく

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